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『日本人はどこから来たのか?』を読んで

『日本人はどこから来たのか?』を読んで
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 新聞に広告が出ていたので 海部陽介著『日本人はどこから来たのか?』(文藝春秋 2016/2 1300円)を買って読みました。『イブの7人の娘たち』(ミトコンドリアDNA分析より日本には9群ある)と『三重構造の日本人』(クロマニョン人が日本にいた)より推論した私の説と どこまで一致しているかなと期待して買ったのですが 筆者は国立科学博物館勤務で考古学を基本とする「人類進化学者」で 後期旧石器文化を形作った現人類(ホモ・サピエンス)最初の狩猟民を研究対象としていて 弥生時代以降の歴史時代(古代日本史)を問題にしている私とは問題意識がずれていて 期待はずれでした。
 本書は はじめに:私たちはどこからきたのか? 第1章:海岸沿いにひろがったのか? 第2章:私たち以前の人類について 第3章:ヒマラヤ南ルート 第4章:ヒマラヤ北ルート 第5章:日本への3つの進出ルート 第6章:対馬ルート、最初の日本人の謎 第7章:沖縄ルート、難関の大航海 第8章:北海道ルート、シベリアからの大移動第9章:1万年後の再会 第10章:日本人の成立 からなっています。
 筆者についての予備知識がまったくないのに、表題から同じ問題意識だと思い込み はじめにを読みだしてすぐ 何これ、あまりにもデタラメすぎると思いました。特に 第1章で詳論している海岸沿い移住説への批判で、「欧米研究者の間でいつのまにか定説となっている」と述べているので 藁人形批判かと思いました。現人類は15万年前にアフリカで生まれ、5万年前に世界に広がって行ったが 筆者も認めるようにいまはこの説が定説になっています。5万年前に最初に広がった現人類は 動物を食料とする狩猟民です。なお水田耕作の農耕民は1万年前に中東で生まれました。だから 動物がほとんどいない海岸沿いに狩猟民が移住して行ったなどということは 陸上動物は塩水を飲まないので、素人にもわかる絶対有りえない話であり 筆者がその海岸沿い移住説を「欧米で定説」と述べていることは、藁人形ではないかと思いました。
 ところが 第2章以降を読んでいくと 5万年前の石器人(狩猟民)はヒマラヤの北と南に分かれて西から東へ移住して行ったと遺跡や人類化石の分析から明らかにしていて ほぼその説は正しいと思いました。『イブの7人の娘たち』を書いたブライアン・サイクスは ヨーロッパが主題なので 5万年前の狩猟民はパレスチナから北へ、そして西(ヨーロッパ)へと広がって行ったとしていますが 『三重構造の日本人』を書いた望月清文は 日本にもクロマニョン人がいたことを明らかにすることで 狩猟民は西だけでなく東へも広がって行ったことを明らかにしたのです。本書は 中東から北に向かい東西に広がった狩猟民(ヒマラヤ北ルート)とは別に 中東から東に向かった狩猟民(ヒマラヤ南ルート)がいたことを明らかにしています。この東に向かった狩猟民は ミャンマー・タイからインドネシアを経てオーストラリアまで広がっていたと 筆者は考古学で得られたデータで説明しています。
 沖縄の石器人(狩猟民)は南ルートの末裔であり 九州から本州の石器人(狩猟民)は北ルートの対馬海峡を渡った末裔であり 北海道の石器人(狩猟民)は北ルートのサハリンから南下した末裔であると 筆者は述べています。
 問題は 筆者はこの3ルートの石器人(狩猟民)を原日本人としていますが 本当にそうなのかということです。私は 望月の研究で明らかにされたように 本州の狩猟民(石器人)の子孫は現在にもつながっていると思いますが 沖縄と北海道とに来た狩猟民(石器人)は縄文人が登場する前に途絶えていたと思います。
 章で言えば 石器人(狩猟民)を主題にした第2章から第8章までは正しいと思いますが 導入部であるはじめにと第1章 および研究結果からの推論である第9章と第10章は間違っていると思います。導入部の誤りはすでに指摘しました。
 推論的結論について言えば 第9章で筆者は「ヒマラヤ南北ルートをたどったそれぞれの集団は、東アジアで1万年ぶりに再会し、混じり合った」としていますが 再会も混じり合ってもいないと思います。なぜなら 狩猟民(石器人)は動物を食料にしています。だからある地域の動物を捕獲し、食べ尽くしたら 新たな土地へ前進しなければ生きて行けません。前進しかないのです。動物を食べ尽くしたのに前進しなければ そこで滅亡するしかありません。だから望月が明らかにしたように 狩猟民(石器人)の末裔は ポルトガル、スカンジナビア、そして日本とユーラシア大陸の端っこ、もはやそれ以上前進が不可能な地で何とか生き延びてきたのです。もう一つの視点は ヒマラヤの北と南では 食料となる動物が異なるということです。北は大型(あるいは中型)動物ですが 南は小型動物だということです。筆者は 南ルートのインドネシアの遺跡から猿の骨が大量に出てくると述べていますが 北ルートではおそらく牛や羊、そして鹿や熊・トナカイだったと思います。食料にする追いかけている動物が異なるのですから「東アジアで1万年ぶりに再会」することなど有りえません。
 第10章:日本人の成立で 筆者は「日本列島に入ってきた3つのグループはいかにして今日の日本人までつながっているのだろうか?」と問題を立て 「3万8000年前の古本州島に現れた集団[対馬海峡を渡った集団]が、基本的にその後の縄文人へと連続していった可能性が高そうだ」と述べています。私は「縄文人へと連続」は間違っていると思います。
 ミトコンドリアDNAを分析したブライアン・サイクスは 現人類の拡散(ビックバン)は3回あったとしています。1回目は5万年前の狩猟民 2回目は3万5千年から2万年前の狩猟+採取民 3回目は1万年前の水田耕作の農耕民です。つまり 狩猟民(石器人)がそれぞれの場所で狩猟+採取民(縄文人など)に進化したのではなく 動物が少なくなった中東に残っていた狩猟民が新たな生活方法(果実の食料化)を見つけだし、狩猟+採取民が生まれ、改めて世界に広がっていったという説です。水田耕作の農耕民(種の食料化)の誕生とその広がり・拡散から類推すれば それぞれの場所で進化した連続説は間違いでビッグバン説が正しいと思います。また 狩猟民(石器人)はユーラシア大陸に限定されていますが、狩猟+採取民はベーリング海峡を越えて南北アメリカにまで広がっていったことからも ビッグバン説の方が正しいと思います。さらに筆者は 北海道の化石縄文人のDNAとシベリアの先住民のDNAは同じと述べ それを北海道の石器人(狩猟民)はサハリンから南下した根拠にしていますが そのデータは シべリアの狩猟+採取民と北海道の縄文人とが同一であることを意味していても 石器人(狩猟民)が同一であるという根拠にはなりません。つまり 縄文人を含む狩猟+採取民も 3ルートで日本にやってきたことを意味していると思います。
 原日本人の「原」を北京原人などの原人と同じ意味で使っているなら間違いとまでは言えませんが 第10章では現在の日本人の祖先であるかのように述べているので おかしいと思います。日本の先住民は 狩猟民(石器人・クロマニョン人)、狩猟+採取民の3群(縄文人、アイヌ人、琉球人)、そして農耕民(弥生人)で そこに約3000年前に倭人がきて倭国をつくり、九州で階級分裂・階級対立が生じ さらに3世紀に中国(江南)、朝鮮(百済、新羅)から逃亡・侵入してきて 7世紀末に倭国が崩壊し、日本国が成立したのです。つまり 天皇は7世紀末に成立した日本国の王なのです。


2016年下期景気動向分析
―――――――――――――                 花 山 道 夫
Ⅰ 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入
 まず、1月29日の日銀の金融政策決定会合において賛成5反対4で可決された「マイナス金利」を解説する。日銀が3月に出した『5分で読めるマイナス金利』がありますが、あくまで読めるのであって分かるのではないのでご注意ください。もし、これを読んで分った気になったら騙され安いタイプなのでお気を付けください。
 通常なら銀行にお金を預けたら利子が付き、借りたら金利を取られる。これがマイナスの金利だと、〈お金を預けると金利を取られる〉ことになる。ただし、今回の決定は金融機関が日銀の当座預金のうち今回新たに設けられた政策金利残高のみに適用されるので一般には当面関係ない。ただし、大口は将来的にはどうなるかわからないといわれている。
 3段階の階層構造に分割し、それぞれプラス、ゼロ、マイナスの金利を適用する。
(1) 基礎残高(+0.1%を適用)
 既往の残高、具体的には2015年1月~12月の平均残高を基礎残高として+0.1%を適用
(2) マクロ加算残高(ゼロを適用) 以下の合計額にゼロ金利を適用する
① 所要準備額に相当する残高-預金の残高に対して準備率が決められている。本来、日銀がこの率を上下させて貸出額の調整を行ってきたが金余りのため、1991年10月16日から一切変更がない。大昔はこれを超過する部分は貸し出しに回したわけである。それだけ資金需要が多かった。
② 金融機関が貸し出し支援基金および被災地金融機関支援オペにより資金供給を受けている場合には、その残高に対応する金額。
③ 日本銀行当座預金残高がマクロ的に増加することを勘案して、適宜のタイミングで、マクロ加算額((1)の基礎残高に掛け目をかけて算出)を加算していく。
(3) 政策金利残高(▲0.1%を適用)
 各金融機関の当座預金残高のうち、(1)と(2)を上回る部分に、▲0.1%を適用する。
 今回の決定は5対4ということであったが、黒田総裁が就任して以降たいがいは8対1というパターンであった。反対に回った他の3人も今回はさすがにという思いであったと推測される。なお7月の決定会合では2人が退任し、政井貴子・櫻井眞〈在特会の桜井誠とは別人ですが、経歴(博士号)詐称と修士論文の薄さ(目次も含めて400字詰め原稿用紙4枚)ということで週刊誌の話題となった〉と交代したため、この件の評決は7対2となった。反対した2人の任期も来年の7月23日までなので、それ以降は全会一致になります。日銀は建前上独立しているが、総裁・審議委員を政府が任命するので実際には独立しているとはいえない。
 『5分で読めるマイナス金利』に「マイナスの金利ってそんなに効果あるの?」の回答として「マイナス金利にしたあと、住宅ローンの金利は下がって、10年固定で借りても1%以下になっています。銀行のローンセンターは大忙しだそうです。会社が借りる時の金利も下がっています。みなさんが家を建てようとしたり、会社が工場やお店を建てたりするときは有利になります」とある。これは正しいか間違っているか。答えは間違ってはいない。確かに銀行のローンセンターは借り換えが多いので忙しいが、銀行の利益は減少している。金融機関の体力が消耗していくので、本来借入意欲が旺盛であるが多少リスクのある企業(多くは設立して日が浅い)に対する貸し出し余力が低下することが懸念される。住宅ローンの場合は、借り換えには抵当権の抹消と設定が必要なので儲かるのは司法書士のみです。後半の「有利になります」も確かにそうですが貸す方は不利になります。需要の増加が見込めないのに工場や店を建てる経営者はいません。問題は金利ではない、将来の展望なのである。ただし、金利の低下で動きそうな件がある。M&Aである。直訳すると「企業の合併・買収」という意味ですが、企業の合併や買収だけでなく、事業譲渡や資本業務提携を含めた広い意味での企業間提携の総称として使われています。概念としては、経営権の移動を伴う(または影響を及ぼす)経済行為を指します。この場合、金融機関から借り入れたり社債を発行したりしますのでお金は動きますが、物はあまり動きません。看板屋は儲かります。人は動きます、社長は2人要りません。要はGDPの増加には寄与しません。今回の件で金融機関の合併等が促進する可能性があるが、それは日銀の仕事ではない。
 日銀は現在の金利の誘導目標をコールレート(銀行間の貸し借り)においているが、当座預金残高に付利することによってコントロールすることができるのである。それゆえ全部マイナス金利にすることは制御不能になるのでさすがにそこまではできない。金利が上昇してきたわけでもないし外部環境が変わったのでもないので、なぜ突然マイナス金利を導入したのであろうか。ずばりいうなら量的緩和路線の行き詰まりである。2016年3月末、日銀が保有している国債の保有高は366兆4156億円で実に国債発行残高1074兆9924億円の33.9%になる。長期国債について「保有残高が年間約80兆円に相当するペースで増加するよう買い入れを行う」(2016年7月29日金融政策決定会合、反対1)ということなので、16年度当初でみると借り換え債109.1兆円を含めて年間発行額は162.2兆円なので、日銀引受分は約半分になる。
 日銀の第131回事業年度付属明細書(平成27年4月1日から28年3月31日まで)によると、国債の保有は79兆4034億円増加している。これは予定どおりだが、金融機関の日銀への当座預金の増加額が79兆3080億円となっている。国債の保有名義人が金融機関から日銀に代わっただけでマネーが市中に還流していない。日銀券は大して増えてない。そのうち買う国債がなくなるのではないかと懸念されている。マイナス金利はそれに対する打開策ではないかともいわれている。黒田総裁、心配ご無用。安倍首相は次の手を考えている。

Ⅱ 経済対策と経済政策
 8月2日に発表された安倍政権の『未来への投資を実現する経済対策』について考察してみよう。「第1章 景気の現状と経済対策の基本的考え方」で次のように言う。
   少子高齢化や潜在成長力の低迷といった構造要因も背景に、現状の景気は、①雇用  ・所得環境は改善する一方で、個人消費や民間投資は力強さを欠いた状況にある。ま  た、新興国経済に陰りが見え、英国国民投票におけるEU離脱の選択等、世界経済の  需要の低迷、成長の減速が懸念される。
   ②雇用・所得環境も大きく改善するなど確実に成果が生まれているものの、アベノ  ミクスは道半ばである。長年続いたデフレから完全に脱却し、③中長期的に、実質G  DP成長率2%程度、名目GDP3%程度を上回る経済成長の実現を目指すためには、  脱出速度を最大限に上げて、しっかりと成長していく道筋をつけなければならない。  内需を下支えするとともに、高齢化社会を乗り越えるための④潜在成長力を向上させ  る構造改革を進める。
   …⑤日本銀行とも連携しつつ、金融政策、財政政策、構造改革を総動員してアベノ  ミクスを一層加速する。
   このため、産業構造改革、⑥働き方や労働市場の改革、人材育成の一体改革に取り  組む。また、改革工程表に沿った社会保障改革等の構造改革を加速化するとともに、  未来への投資の加速を目的とする総合的かつ大胆な経済対策を講ずることとした。
   本経済対策は、⑦当面の需要喚起にとどまらず、民需主導の⑧持続的な経済成長と  一億総活躍社会の着実な実現につながる施策を中心とする。(下線・番号は引用者)
 ②確かに有効求人倍率は一年前と比べると1.10から1.27と上昇しているが、求人数は増えたが求職者数は減ったということに留意しなければならない。さらに重要なことは正社員に関していえば、前年の0.70から0.82と改善したが相変わらず1を切っているということである。雇用の質が改善しない限り個人消費が活発になることはない。③④とも関連するが求職者数が減っている方が問題である。
 潜在成長力を向上させるということだが、潜在成長率とは『経済辞典』(有斐閣)に「労働、資本、土地、天然資源などすべての生産要素を最も有効に活用した場合に実現される一国の国民総生産の最大成長能力のこと。資源やエネルギーなどの供給制約が厳しくなれば、潜在成長力は低下する」とある。通常、生産活動に必要な工場や機械設備などの「資本ストック」、労働力人口と労働時間の積で表される「労働」、これらの生産要素を産出に変える「全要素生産性Total factor productivity(技術革新や技術の活用法の進歩、労働や資本の質向上等)≒生産技術のレベル」の3要因の総和から推計される。
 日銀の推計によると1983年以降で最も高かったのは1985年の第4四半期から1986年の第1四半期(以下1985・4Q-1986・1Q)が前年比4.50%。1994・2Q-3Qで1.91%と2%を切ってから2%を一回も上回っていない。直近の2015・4Q-2016・1Qでは、TFP0.24%、資本ストック0.07%、労働時間▲0.13%、就業者数0.03%となり、合計で0.21%となる。資本ストックを増やせば現状では過剰設備、過剰生産となり中国経済みたいになる。TFPはそう簡単に上がるものではない。では「労働」はどうかというと、2010年総人口1億2806万人の内、生産年齢人口15~64歳が8103万人、人口割合63.8%であったが、2015年には7682万人60.7%になっている。17年には60%を切り2020年には7341万人59.2%になると推計されている。なお生産年齢人口の最大は1995年の8726万人である。
 花山の言いたいことは、今から保育所を増やして女性労働者に活躍してもらってももう遅いということである。保育所や労働環境を整備することはいいことであるが、それで2%の成長は達成できない。女性労働者や高齢の労働者が増えても全員がフルタイムで働けるわけではない。また生産性の問題もあるので人数増の割には寄与率が上がらない。さらに今まで子供がほしかったが保育所が確保できないのであきらめていた人が出産するとどうなるか? 残念ながら生まれた子が実際の働き手になるのは20年後ですからこれも駄目である。あとは移民の受け入れだけである。これを主張するエコノミストは結構いるが、アメリカの大統領候補トランプやイギリスのEU離脱を見ても分かるようにまず国民的合意は無理である。ということで⑧の持続的成長はあり得ないということが分かった。
 では、まったく手段がないのか、結論から言えば⑦当面の需要喚起ならば可能である。内閣の支持率の調査項目で一番目に「ほかの内閣より良さそう」次に「経済対策に期待が持てそう」というのがいつも来ているようだが、経済政策と経済対策の違いをどう認識しているでしょうか? 簡単に言えば長期と短期の問題である。政治が扱うのは基本的には政策なのである。予期せぬことが起こったときに対応するのが対策である。例えばリーマンショックとか大地震とかである。⑧が政策であり、⑦が対策である。安倍にとっては当面が重要なのである。いつまでか、改憲を成し遂げるまで。だから消費税の増税を先送りしたのである。消費税は逆進性が高いから反対という理由なら政策であるが、経済情勢を理由に先送りした。その時点はそうさしせまった情勢ではなかったので、経済対策というよりも選挙対策といえる。今回の対策も補助金、はっきり言ってバラマキの類が多い。事業規模は28.1兆円で真水(財政措置)は13.5兆円とされている。財源は当然、日銀それしかない。いよいよ今話題の「ヘリコプターマネー」政策の発動だ!
 
Ⅲ ヘリマネでデフレからインフレへ転換
 週刊『エコノミスト』(2016.8.02号)に
   与党が勝利した参院選から一夜明けた7月11日、ベン・バーナンキ米連邦準備制  度理事会(FRB)前議長は黒田東彦日銀総裁と会い、翌2日には安倍首相とも会談  した。ヘリコプターからお金をばらまくという比喩から生まれた「ヘリコプターマネ  ー(ヘリマネ)」政策の推奨者、「ヘリコプター・ベン」の異名を持つ。
   バーナンキ氏は安倍首相に対しては「アベノミクスは大変な成果を残している。今  のまま続けてください。」と評価した。また、直接的に「ヘリコプターマネー」とい  う言葉は出なかったものの、「金融政策と財政政策の両方を使えばうまくいく」「日   銀には金融緩和の手段がまだいろいろ存在する」などと指摘したという。
   ヘリマネは、増税などにより政府に回収されることのないお金を人々に配る政策の  総称と考えられている。バーナンキ氏は、デフレ脱却のためには、政府が家計や企業  に対する減税などで財政出動し、中央銀行が国債を買い入れるなどしてその財源を賄  うことを以前から提唱している。中銀が国債を保有し続ければ、政府は借金を返済す  る必要がなくなり、負債を抱えずに財政出動することが可能になる。このような方法  について、バーナンキ氏ヘリマネの考え方と同じだと認めている。
 菅官房長官は安倍・バーナンキ会談の後の記者会見で、ヘリマネ政策について「検討しているような事実はない」と否定したということですが、なんか得体のしれないようなことをやろうと受け取られるのでヘリマネとは言わないだけで、実際には開始したとみてよい。こうした政策は通貨の信認を失いハイパーインフレーションを引き起こすと心配する向きもあるが、そこまではならないと花山は考えている。
 ハイパーインフレーションとは一般的には猛烈な勢いのインフレーションで使われるが、最低でも国際会計基準の定める3年間で累積100%(年率約26%)の物価上昇。フィリップ・ケーガンによる定義では月率50%(年率1万3000%)なので、そこまではいかないでしょうということである。高インフレを引き起こすといわないと揚げ足を取られる。カーメン・M・ラインハートとケネス・S・ロゴフの『国家は破滅する』によると1917~94年の間でハイパーインフレーションになった例として3例をあげている。アルゼンチン1989年インフレ率3079%、ブラジル1990年2947%、ドイツ1923年222億2019万4522%。日本の1945年の568%位では、高インフレではあるがフィリップ・ケーガンの定義には一致しないということである。
 ここで、日本の国債は国内で主に所有されているから心配ないということについて考察してみよう。富田俊基『国債の歴史』(東洋経済新報社 2006年)によると、いわゆる高橋積極財政(1931年12月)の一連の流れの中で始まった国債の日銀引受(1932年11月25日)という政策の大転換にもかかわらず名目金利の上昇をもたらさなかったのは1932年に施行された資本逃避防止法等の規制によって内外金利裁定が機能しなくなったということを指摘している。
   日本国債の真実の金利は、国際金融市場で観察することができる。各国経済のファ  ンダメンタルズに応じて変動したのは、若田部〔注1〕が指摘した国内の国債金利で  はなく、ロンドン市場での各国国債の金利であった…1937年7月の日中戦争勃発  で、4分利付英貨公債の金利は再び10%を突破し、それ以降上昇を続けた。そして、  第二次欧州戦争が勃発した39年9月には20%を超えた。日独伊三国同盟が締結さ  れた40年9月は21%であった。同月の東京市場では同じクーポン・レートの第1  回4分利付公債がオーバーパー〔債券価格(時価)が額面を上回る状態のこと。これ  に対して債券価格が額面と同じ状態のことを「パー」、債券価格が額面を下回る状態  のことを「アンダーパー」という〕で推移していたが、ロンドン市場での価格は額面  のわずか25%であった。わが国の敗戦とその後のインフレを予想していたかのよう  に、日本国債はジャンク・ボンドに墜ちていたのである。
 (注1)若田部昌澄「歴史に学ぶ、大恐慌と昭和恐慌の教えるもの」岩田規久男編『まずデフレを止めよ』(日本経済新聞社2003年)。若田部はリフレ派の有名な論客である。
 上記のことから言えることは日本国債の保有者の大半が日本国籍(現状9割)だから大丈夫とはいえない。この4年間でみると年平均で30兆円近く国債残高が増えている。この傾向が続くとして2020年にどうなるかと計算してみる。
 国債の残高 1074兆円+増加額4×30兆円=1194兆円(A)
 日銀の保有残高317兆円+増加額4×80兆円= 637兆円(B)
 B÷A≒55.3%となる。4年後に残高の半分以上を中央銀行が保有しているから大丈夫と自信を持って言えますか。
 国債の残高は将来の高インフレや償還が危ぶまれてくるならばキャピタルフライト(国内債券の売り、国外資産の購入)という形で債権価格が下落(金利の上昇)してくると新規の国債発行が難しくなる。現段階ではとりあえず資金を移動しても安心という国はないということにつきる。このまま黒田と安倍に任していたらどうなるかわからない。
   本章で述べたように、金本位制離脱と低金利政策は昭和恐慌からの脱出の呼び水と  なった。この点は岩田規久男らの指摘のとおりであるが、いったん始めた国債の日銀  引受は出口の模索すら不可能になり、軍部の便利な財布となり戦争の拡大をもたらし  たといって過言でない。岩田規久男らは、国債の日銀引受からの出口が軍部によって  ふさがれたという前提で議論を進めているが、それを日銀引受の結果と考えると、国  債の日銀引受によって昭和恐慌からの脱出に成功したとはいえないであろう。また岩  田らが国際金融市場での日本国債の金利の動向を全く無視して論を展開していること  は、当時の軍部と何ら変わるものではないといえば言い過ぎであろうか」(前掲書)
 異議なし!当時の軍部にあたるのが今回は安倍政権。
 教訓:恐慌より怖い日銀引受=悪性インフレーション

Ⅳ 潮目は変わった
 日本経済新聞(2015.12.05)の社説に「大切なのは中小零細企業の生産性向上と最低賃金の上昇が一体的に進むことである。無理に最低賃金を上げることで企業のコストが急に膨らみ、人減らしなど雇用の悪化を招いては本末転倒だ」。これが、ブルジョアジーの賃上げに抵抗する一般理論であった。製造業であれば今まで一日当たり10個作っていたのを新型機械導入で20個作ることができるようになれば生産性向上になる。しかしサービス業ではそう簡単ではない。例えばデパートで訪日客に合わせて通訳を置いていたのを従業員が英語と中国語をマスターすれば生産性向上になる。しかし一日当たりの接客数を倍増することはできません。製造業や建設業でも子会社や下請けを使うのは自社で内製化するより安くできるからです。個人事業主のなかにはかなりな長時間労働をやっている方もおります。単価が安いために時間で稼いでいる。こういうのを自己搾取という。
 賃金を上げると雇用者数が減るというのが新古典派の経済学者の主張である。製造業が海外移転し労働者が相対的に過剰な状態では一定通用したが、もはや潮目が変わった。先にみたように、この5年間で労働力人口は300万人以上減った。需要と供給のバランスが変わったのである。安倍さえも最低賃金1000円と言い出した。下記の職業別就業者数の表をみると、順位は変わらないが生産工程従事者が少しずつ減っている。(a)販売従事者が少しずつ減って、(b)運搬・清掃・包装等従事者が伸びている。運搬に分類されるのは郵便配達員、倉庫作業員、荷物の配達員、荷造作業員が含まれる。電車、バスの運転手は輸送の方に分類される。包装の職業には製品包装作業員、ラベル貼り付け作業員等で構成されている。この変化(aが減ってbが増える)はネット販売の増加が影響していると考えられる。(c)サービス職業従事者は少しずつ増えてきたが、2015年は若干ながら減少に転じた。この職種には介護サービス、飲食店の接客・給仕等が含まれていることから分かるように相対的不足から絶対的不足に転化したからである。大幅に賃上げしない限りこの問題は解消しない。賃上げが速やかに行われれば「デフレ」(リフレ派が言っているだけで実はデフレとはいえない)から緩やかなインフレに代わる。デフレの原因はもともと賃金デフレなのだから、反対に転じれば解消する。[図表は省略]
 イギリスのEU離脱が話題になったが、むしろヨーロッパではイタリアのモンテパスキ銀行の不良債権問題でかなり深刻な状態になっている。状況しだいではリーマンショック時並みの影響が出るかもしれない。内需を拡大して危機に備えなければならない。例えば韓国は工業製品の輸出等で日本と似たようなところがある。しかし韓国の人口は5000万人超であるが日本は2倍以上あるので、内需を拡大すれば来るべき金融危機の備えとしては韓国よりはある意味では優位である。輸出立国みたいな考えはもうやめた方がよい。
 関連してもう一つ付け加えておく。爆買いなど訪日外国人の増加が話題を集めている。確かに2010年に訪日外国人の旅行消費額1.3兆円(国内の旅行消費額の5.7%)が2015年には3兆4771億円と驚異的な伸びを示している。一方で、日本人の国内旅行は2010年20兆4354億円、11年19兆7369億円、12年19兆4208億円、13年20兆1871億円、14年18兆4204億円と足踏み状態が続いている。宿泊施設が足りないとか報道されているが大都市だけの話で、可処分所得が増えて日本人旅行者が増えれば地方も活性化する。問題はあれやこれやの振興策ではない。労働者の賃金を上げるのが先である。
 日本経済新聞(2016.8.19)に
   派遣社員の時給上昇が止まらない。求人情報大手のリクルートジョブズが18日ま  とめた7月の三大都市圏(関東、東海、関西)の募集時平均時給は前年同月比2.1  %高い1646円だった。プラスは38ヶ月連続で、07年2月の調査開始以来最高  となった。サービスやIT(情報技術)を中心に人手不足が続き、派遣会社は時給を
  上げないと社員を集められない。
 社長は少し前までは、よその会社の社員の給料が高くて〔購買力が増える〕わが社の社員の給料が安いといいと考えていたが、今や給料上げないと社員に逃げられる。
 コストプッシュ・インフレを起こそう。
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