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浜矩子『世界経済の「大激転」』を読んで

浜矩子『世界経済の「大激転」』を読んで
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 浜矩子『世界経済の「大激転」 混迷の時代をどう生き抜くか』(PHPビジネス新書 17.6発行 850円)を読みました。
 「○○ファースト」を唱えるトランプやフランスのルペン、安倍晋三らを「激転妖怪」と呼んで 今、グローバル社会でなぜ彼らが登場し支持を得ているのかを経済的基礎から分析し その「処方箋」を考えようとするものです。経済のグローバル化が貧富の差を拡大し格差社会を激化していることに対し 直対応的な反グローバルは激転妖怪の「糠床」ヌカドコでしかないと明らかにして 良きグローバル化(その核心は「君富論」)だと結論づけています。このあたりは 共産主義と通ずるものがあるなと思いました。
 先日の総選挙で民進党が小池新党への合流を打ち出し破産しましたが 何故そんな合流方針が出たのか マスコミは反安倍と当選のための野合だと日々大騒ぎしていましたが それだけでは政党同士が合流することはありえず(統一戦線で十分) 反グローバルは激転妖怪の「糠床」だの指摘に なるほどと思いました。一般論的に言えば 危機の時代には支配階級がボナパルティズムとファシズムに分裂し、民衆との3極対立になるので 民衆がファシズムに吸収されないためには、民衆の側の正しい視点・方針が問われるわけでそのヒントが提起されていると思いました。また「○○ファースト」は 民衆の下からの運動としてではなく、選挙を重視し上からの大衆扇動が基本なので ファシズムと規定することには少し無理があり 「激転妖怪」は言いえて妙だと思いました。

 表紙の裏頁に 筆者が本書の意図を述べています(はじめにからの抜粋)。「絶対に起こってはならない逆戻り。それが今、我々を脅かそうとしている。…1930年代への逆戻りだ。国々の我欲がぶつかり合い、火花が大火となって世界を呑み込む。怪しげな野望を抱く者たちが、人々を排斥行動へと駆り立てる。おぞましき構図への逆戻り。この現実を直視し、何をどう見定めるべきかを突き止める。激転阻止。本書はそのための旅だ。」
 本書は4章構成で 第1章:妖怪万華鏡時代―「激転」に向かって突き進む魔物軍団 第2章:簡単越境時代がもたらす政策不全―国境無き時代に翻弄される国々 第3章:激転妖怪たちが目論む政策異変―簡単越境時代への妖怪的逆襲 第4章:激転妖怪たちをどう撃退するか です。
 はじめにで 各章で何を述べているかが簡潔に書かれています。「第1章では激転に向かって我々を引っ張り込んで行こうとしている妖怪軍団の顔ぶれを見る。第2章では 激転の危機が現実化しているのは、国々の政策が国境無きグローバル時代の力学に上手く対処出来ていないからだ。政策が無力化することについては、…本書の中で解ほぐしておきたい。第3章では 激転妖怪的思惑や企みが、どのような形で今日の政策運営の中に忍び込もうとしているかを考える。第4章で グローバル時代が激転すなわち時代逆行的退行を免れるための道筋を展望する。」と。

 章の見出しとはじめにで本書のイメージは掴めたと思うので 各章ごとに私がなるほどと思った所を列記します。
 第1章は 激転妖怪として トランプ(米)、欧州のルペン(仏)やファラージュ(英)らの面々、プーチン(露)と習近平(中)、そして安倍晋三が取り上げられ それぞれの妖怪ぶりと特徴が示されています。
 「国境を超えて経済活動が広がるグローバル時代は、誰もが『君富論』に徹しなければ存続不能だ。誰もが『僕富論』を前面に出してしまえば、グローバル時代は暴力的な終焉を迎えるほかない。それが、今日的現実だ。」 僕富論、君富論は筆者の造語で 自分さえ良ければとあなたが良ければを意味しています。ここではトランプのアメリカ・ファーストへの批判として書かれているのですが 本書の結論でもあります。
 「妖怪度は、どこまで右翼的であり、国家主義的であり、弾圧的であり、排外的であるかという観点から考えている。これらの傾向が強ければ強いほど、暗黒時代への激転を実現しようとする性癖が強い」。この観点は正しいと思います。
 民族主義と国家主義との違いとして 「民族自決の思いは、民主主義への希求にもつながる。民族自決に向けての闘争は、国家による弾圧と人権侵害に対する闘いの形をとる場合が多い。民族主義的闘争は、それが小さき者たちによる大なる権力への反乱である時、それなりの正当性を持ち得る。」「決して相手を自分の方に引っ張り込もうとするわけではない。自分の論理を相手に押し付けようというのではない。自分の自分らしさを認めて欲しいだけ。ここに、民族主義闘争の核心がある。ここが、国家主義的な一元化のお仕着せとの原理的相違点だ。」と述べています。
 「経済がグローバル化しているから、格差が広がる。貧富が深まる。地域社会が消滅に追い込まれる。自然が破壊されて行く。カネに人が振り回される。モノづくりがカネ回しに敗北する。グローバル化は人類の敵だ。…それは事実だ。…だが、反グローバルのノロシを上げることは危険だ。それをすると、激転妖怪どもの思うつぼにはまる。…その最も怖いことは…国家至上主義である。…上げるべきノロシは反グローバルのノロシではない。良きグローバルのノロシだ。」
 第1章の結論として 最も警戒すべき激転妖怪は 「世界の真ん中で輝く日本」を唱え「環太平洋地域から、インド洋に及ぶ地域の…」(1月20日の施政方針演説)と戦前の大東亜共栄圏以上の地域を勢力圏化したいと考えている安倍晋三だと述べています。一国的な○○ファーストを超えたかつての帝国主義的な地域制圧を考えているわけです。

 第2章では 「人々が激転妖怪たちに引き寄せられるのは、彼らが追い詰められていて不安だから。なぜ人々はそのような窮地に追い込まれるのか。それは、国々の政策が本来果たすべき役割を果たせずにいるからだ。」つまり「国々の経済政策がグローバル時代の経済活動に追いついていないからだ。グローバル時代は国境無き時代だ。だが国々は国境あってこその国々だ。ヒト・モノ・カネは国境を越える。だが国々は国境を越えられない。経済はグローバル化する。だが国々の政治と政策はグローバル化出来ていない。」「従来誰もが当り前のように国民国家単位の経済運営を想定していた。…ところがヒト・モノ・カネが国境を越えるグローバル時代においては、経済政策においても国境の内と外の区別がつきにくくなって来る。自国の国境内の経済活動に対してお薬を注入しているつもりだったのに、実は別の国の国境内でそのお薬が効果を発揮してしまう。…こんなことが起こる時代になってしまった。」 ここが経済情勢論としてのポイントだと思います。
 以下この点が 具体的に、対内政策としての金融政策と財政政策、対外政策としての通商政策と為替政策が分析されています。
 「金融緩和のやり方は1つが金利の引き下げで…もう1つが量的緩和だ。」「金融緩和で国内でカネ余り状態を作り出しても、…[金利が低下するので]カネを貸す側にしてみれば、カネを貸すことでまともに金利を稼ぐことは事実上不可能になっている。…海外にカネを出稼ぎに出そう。投資家なら、当然そう考える。」「その国で余ってきたカネは高金利を確保できる高金利国めがけてどんどん出稼ぎに出て行ってしまう。」 他方「ある国においてインフレ退治が課題になっているとする。金融を引き締め…経済の過大膨張にブレーキをかけようとする。ところが、金融緩和国から国境を越えて出稼ぎ資金が流れ込んでくるので、金融引締め効果は薄まってしまう。」「かくして、グローバル時代における国々の金融政策は、実に奇妙な論理に縫着する。金融緩和を目指す国は金融を引き締めなければならない。金融を引き締めたい国は、金融緩和することが必要だとなる。」
 ここで 今年初め 名前は忘れましたが 金融引締めを主張するアメリカの経済学者が日本にきて安倍に金融緩和をどんどんやれと薦めたという話を思いだしました。アメリカ経済を復活させるために 自国の金利を上げて、金融緩和国からのカネを引き込もうという話だったんだと納得しました。当時は 一人の学者が真逆の主張をするので何か変だなあと思ったのですが。
 財政政策について「高い税金を払いたくない人や企業は、やたらと国外に出て行ってしまう」。これはパナマ文書で白日のもとに明らかになりました。最近では バミューダ諸島のタックスヘイブンが暴露されていました。だから 国々は企業や投資家が海外に逃げ出さないようにと法人税や高額所得税を下げるしかなくなり その分消費税をあげても税収が減り、公共サービスの量や質が低下していくことになっているのです。
 次に通商政策について「ヒト・モノ・カネの簡単越境時代においては、ある製品の生産工程が、1つの国の中では完結しない。生産体系が国境を越えて広がる時代なのである。」「簡単越境時代においては、日本企業の製品が、日本製の製品だとは限らない。…かつて、国家間分業といえば、それは生産物に関する分業を意味していた。…今日的分業は、生産物分業ではなくて、工程分業なのである。」「アメリカのメーカーが完成品の輸出を増やそうと思えば、その分、海外の自社工場や海外メーカーからの部品調達を増やさなければいけない。輸出が増えれば、輸入も増える。そういう時代だ。」
 為替政策については テレビで毎回のニュースで為替相場を報道していますが、私にとっては馴染みが薄いので省略します。関心のある人は 先に見た金融政策の分析で考えるか、本書を読んでください。
 マルクス経済学は1つの閉じられた経済圏を想定して論じています。だから これまでは世界全体とか一国内ではと考えて分析してきました。だが ヒト・モノ・カネが簡単に越境する時代においては どこまでが国内でどこからが国外かを区別することが出来ないということです。だから そこを押さえて論じて(考えて)いくことが必要だということだと思います。私にとってこの章は勉強になりました。

 第3章では 激転妖怪たちが目論んでいる次なる政策を 安倍とトランプについて明ら かに(推論)しています。
 安倍について 1月20日の施政方針演説に これまで毎年掲げてきた財政の健全化なる言葉は一切出てこなかった。これは「中央銀行による国債の直接引き受けを解禁しろ」と言いたいのではと述べています。安倍の経済政策のブレーンであった浜田宏一は「意図的無責任財政の薦め」を主張しているそうです。つまり「赤字垂れ流し大作戦を展開することで、インフレ経済化を促進しなさい。[国民は]将来の物価上昇を見込んで買い急ぎ行動に走るでしょう。一気にデフレ解消です。」同時に「政府の債務残高も、インフレが大きく亢進すれば、屁の河童で返せるでしょう。」と主張しているそうです。
 確かに 例えば100円が1円になるわけですから 1000兆円の国の借金(国債)はたったの10兆円というわけです。50兆円の税収から考えれば「屁の河童」です。だが その時の国民生活はどうなると考えているのでしょうか。74、5年皆が買いだめに走りスーパーから商品が消えてしまったことがありました。おカネがない人は買いだめはできません。机上の論理だけで、民衆の生活などまったく考えたことのない学者らしい発想だと思います。そして 一旦インフレが始まりだすと あまりにもおカネが多いのでハイパーインフレになってしまいます。
 トランプについて TPPからの離脱で明らかなように 通商交渉を多国間交渉をやめて二国間交渉に転換しようとしています。この二国間交渉は 戦前の先進国が後進国を植民地化あるいは属国化(ブロック化)するための方法でした。2者で交渉すれば 必ず強者が有利になるわけです。戦後は 30年代と戦争の反省から「自由・無差別・互恵」を掲げて貿易の自由化を図ってきたのです。まさしく30年代への逆戻りを考えているのです。安倍のインド洋まで発言も同じだということです。
 「圧倒的に凄まじい勢いを発揮している資本の越境移動力に振り回されて、国々は金融政策についても為替政策についても、無力感を噛み締めることを強いられている。それが実態なのではないか。ここが、どうも問題の本質であるように思う。」と 結論しています。

 第4章では パックス・アメリカーナはニクソン・ショックで終焉したから グローバル時代は「誰も一人では生きて行けない時代であり、パックス誰でもない時代である。」と結論し 激転妖怪見極めポイントを5点上げています。「①目指すところは逆転である。②内外均衡無視論者である。③必ず略奪者と化す。④ニセ予言者である。⑤究極の僕富論信奉者である」[番号は松崎]。④の説明で「ニセ予言者は単なる人気取り詐欺師たちにほかならない。ウソをつくことに何の良心の呵責も感じない。」と述べられていたので モリ・カケの安倍を思いだし笑ってしまいました。⑤で「僕富論信奉者だからこそ、逆転の国家主義者と化す。」と指摘しています。
 結論として「グローバル時代は一人では生きて行けない時代」だから、君富論に立つ以外にないと述べ 「ニセポピュリズム[大衆扇動]を排して真のポピュリズム[人民主義]を蘇えらそう」と呼びかけています。その通りだと思います。主人公は民衆なのです。いかにすれば民衆が主人公になれるかを考えることが 私たちのテーマだと思います。

[訂正] 先月号の7頁15行目の「84年」は「85年」の誤りでした。
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