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隠岐芳樹氏の反論に応えて

 後半に 花山君の「2016年上期景気動向分析(下)」(2月号の続き)を載せています。併せてお読みください。

隠岐芳樹氏の反論に応えて
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 隠岐氏が『未来』10月15日号の「戦後70年と<天皇> 最終回」で述べられた 本多延嘉さんの「天皇制ボナパルティズム論」批判について 私は『わいわい通信』12月号で批判を書きましたが 隠岐氏が『未来』2月4日号でそれへの反論を書かれたので 改めて意見を述べたいと思います。
 隠岐氏は 私の批判点を5点とし 「最後に」として古代天皇制成立についての私の見解について触れられていますが そもそも1点目から4点目までは 隠岐氏が本多批判としてあげられた4点への直対応的反論であり 5点目と「最後」がいわば私の(積極的)見解と言えます。そして 1点目から4点目の批判への隠岐氏の反論は自説の再主張であり、繰り返しの感が強く 私への反論にはなっていないと思うので 私の再反論は12月号を再読していただけたらと思います。その上で 今回の論文で新たに書かれていることについて述べます。

 隠岐氏は 1点目で「労働者階級の組織率は1つの参考例として紹介したにすぎず、そこに重点を置いてはいない」と述べていますが 私は 「第二インターの例を見るまでもなく」労働組合の組織率では労働者階級の「成長」は表現できないと言ったのです。論点は 表現出来るか出来ないかです。論拠にならない例に依拠した主張は 正しいとは言えません。
 また5点目で「拙稿は天皇制打倒を明示的に表現していないが、…天皇制をなくそう(打倒、廃絶)という根本的立場が貫かれていると読み取ってもらえるものと考える」と述べています。私はまさか 隠岐氏が天皇制擁護の立場に立っているとは思っていません。そうではなく 「天皇制イデオロギーに打ち克つ道」の核心は天皇制打倒ではないのですかと反論したのです。その核心を押さえない「打ち克つ道」はないと思います。
 4点目の90年天皇決戦について「当時の政治情勢…の主体的把握にもとづくものであった。本多論文を理論的根拠に打ち出された訳ではない」と述べていますが 理論的根拠がなければ主体的把握はできないと思います。闘争方針は 政治情勢から一義的に決めているのではなく 理論や戦略から強弱をつけて打ち出されていると思います。

 1点目で「資本家階級が天皇を担いだのは、日本が明治維新以降、欧米列強に追いつき追い越そうと、資本主義を導入・形成・発展させていくためには人民を統合・支配し対外侵略を推進する "核" として、天皇制(イデオロギー)を利用することが最も有効であると判断したからである」と新たな論点が提起されています。しかし 明治維新後、支配階級(もとの薩長の下級武士団)が天皇を担いだのは 幕府に対抗し、自らの民衆支配の「正当性・根拠」のためです。「最も有効」か否かではなく、それしかなかったのです。対外侵略に民衆を動員するための有効性論は 支配体制が一定できあがった上での話です。
 論理的順序が逆だというだけでなく ここでも隠岐氏が天皇制を日本資本主義の支配体制・統治形態として考えるのではなく、単なる民衆動員のイデオロギーとしてしか考えていないこと つまり体制を問題にするのではなく、民衆が天皇制イデオロギーに取り込まれていることだけを問題にしていることを示しています。これでは 心は天皇制打倒であっても 論理は天皇制是認になってしまいます。
 江戸時代にはほとんど忘れられていた(無視されていた)天皇が 明治以降民衆にまで広まったのは 学校と軍隊で民衆に強制したからです。つまり 天皇制・天皇制イデオロギーは 国家権力による暴力・強制があってはじめて成立するのです。なぜなら もともと真実ではなく、デッチ上げ話(フィクション)なのですから。余談ですが 江戸時代には倭国の元号が研究されていたそうです。法隆寺の釈迦三尊像に刻まれた年号は倭国の元号だそうです。
 また 「国家体制=統治機構…をどう規定すべきかという問題[は]…、一定の時間をかけて討論し結論を導き出すのが賢明ではなかろうか」と述べていますが すでに本多さんが天皇制ボナパルティズム論として明らかにしているのに 間違っていると主張しながら代案・対案を出すのではなく、討論=民主主義を装って結論を先延ばしにして(実質)否定するやり方は いかがなものかと思います。理論を語る人がする態度ではありません。
 2点目で 私が「転向強要」と言ったことに対し 「戦前の場合、転向誘導が正しい」と隠岐氏はわざわざ注を付けていますが 逮捕して、獄中や警察署で警官が反対派に転向を強要することは「誘導」なのですか。監禁という暴力の下での誘導は「強要」と言うのではないのですか。このことも含め、論文全体が 権力による強制・暴力を問題にしないで、支配されている民衆を問題にしています。これほどあからさまな権力・支配の擁護・美化はないと思います。

 本多さんは「明治維新で成立した近代的統一国家―中央集権的な絶対君主制―は、封建的家臣団が軍事的、警察的官僚制に転化することによって形成されたきわめて絶対主義的な国家であった…」が エンゲルスの「労働者階級の進出にたいしてすべての所有者階級をまもることが問題になった瞬間から、旧絶対君主制は、とくにこの目的のためにつくりだされた国家形態たるボナパルト君主制に完全に移行しなければならなかった」というドイツについての指摘が 「日本でもほぼ同様の過程が明治29年~31年[1898年]頃からはじまり、… 大正7年…から大正13年(1924年)…頃までには完了していたと考える」と展開しています。
 私は 帝国主義段階の国家体制・統治形態は一般的(基本的)にはボナパルティズムだと見ています。もちろん君主制・大統領制・軍部独裁などいくつかのパターンはありますが。そして 危機の時代に入るとボナパルティズムに対抗してファシズムが登場してきます。日本の場合は ボナパルティズムがファシズム的要素をとり入れ実行する傾向が強いですが そうなるのは ファシズムといえども天皇にとって替われないからです。他方 資本主義のままで天皇制をなくすことはできないと思います。日本の民衆が資本主義を打倒して自己権力を打ち立てたとき 天皇制は自然と消滅・廃絶すると思います。
 民衆が天皇制イデオロギーに染まっていることを問題にするのなら その前に<7世紀末に倭国が崩壊し、日本国が成立した>という史実を 今まで左翼の誰一人言ってないことこそ問題だと思います。神話はしょせん神話、ウソがあって当り前として 史実を発掘・解明してこなかったことが 弥生時代から天皇がいたかのようなウソ(倭国の存在を認めない、万世一系の天皇制論)をまかり通らせているのだと思います。


2016年上期景気動向分析(下)
――――――――――――――― 花山 道夫
Ⅳ 世界市場再分割 [2月号の続き]
  落合薫「新自由主義論についての質疑応答」への感想
 花山が気になったのは『展望』17号(p168)の「日本の株式の外国人持ち株比率が高いのは米への従属を表すか?」。これに対する回答部分を文章の構造解析も必要なので全文引用する。(①、②、…は花山が記入)
   外国人持ち株比率は90年代前半には10%に満たなかったが、
  2012年には28%まで増加しています。①しかしこの議論は間
  違っています。
   第1に、多くの人は東証における売買高シェアと持ち株比率を混
  同しています。売買高シェアの外国人比率は70%前後といわれて
  いますが、実際の持ち株比率は30%に達していません。
第2に、先進国では株式市場の20~30%は自国以外の人に保
  有されているので、日本が突出して外国人に買われているわけでは
  ありません(ちなみに韓国は外国人の持ち株比率が50%を超えて
  います)。②日本株の投資(ほとんどが投機)は儲かるから行うの
  で、逆に外国人に買われないような株式はボロ株です。
 第3に、③日本が外国人に株を持たれている以上に、日本が外国
  の株を保有しているという事実から目をそらしています。しかも 
  ④日本の外国株保有は直接投資が多く、支配する度合いが強いので
  す。⑤20年間以上にわたって対外純資産世界1を続けている日本
  のグローバル企業を甘く見てはダメです。

 この論考の冒頭に「まだまだ不十分で過渡的なものですが、あらためて批判と助言を乞うものです」とありますので、まず助言から行きましょう。
(1) データの正確性と信頼性に注意すること
 花山はデータについては信頼のおける所から最新の情報をとるように心がけている。外国人保有割合は日本取引所(東証)でいつでもとれる。ただ、定義をあいまいにしてはいけない。単に外国人保有割合といった場合すべての株式市場を指す第一部、第二部、マザーズその他を含む。でも外国人は情報の関係や売買額の問題等があるので、指標としてみるなら少なくとも東証第一部(1872社)で見るのが順当だと考えられる。たぶん落合氏のデータはこれからだと推測されます。それによると2012年末で28.8%、14年末で32.4%となっている。なお日本経済新聞(2015.6.6)の記事によると、日経平均株価を構成する225社の14年度末(2015年3月末。一部企業は1、2月末、2014年末)では35.3%で過去最高になったと報じている。③④についてはデータが示されていない。
 日本での外国人保有割合は簡単に取れるが、逆はそう簡単ではない。直接投資といった場合、経済学的に厳密に言うと対外直接投資(自国の企業が外国に投資した場合)と対内直接投資(外国の企業が自国に投資した場合)と2つある。日本の場合は対外は多いが対内は極めて少ない。ジェトロによると 14年の実績(フロー)でそれぞれ1,197億ドル、90億ドルである。対してアメリカの場合は対外も多いが対内も多い。絶対値では日本より圧倒的に多い。それぞれ3,369億ドル、923億ドルである。(二次データ『経済のネタ帳』から。アメリカの商務省で一次データは取れるのですが、翻訳に時間がかかるので今回は見送りました。)

(2) ②や④は愛国者に対する答えとしては十分かもしれないが、左翼の答えとしては到底納得できない。
 ①でいきなり議論は間違っていますときて、文章の流れで何を指しているのかわからない。論理の組み立てとしては「第1に」以下は不要。質問者が混同しているわけでもないのにこの文章の組み立てはおかしい。一番に指摘しなければいけないことは、質問者が外国人株主=米国人と決めつけていることに注意を喚起しなければならない。実際のところすべての外国人株主の国籍を同定するのは不可能。例えばロンドン経由で買いが入ってもアラブの政府系ファンドや大富豪ということもあるそうです。それはさておき個別企業ごとに有価証券報告書とかを調べれば、上位株主名から国籍を推測することは可能です。また金融商品取引法に基づき、上場会社の株券等や投資証券等を5%を超えて保有した場合、大量保有報告の提出が義務づけられているのでこれからも調べられます。

 [図表] 外国人持ち株比率
 1.ネクソン 8,586億円 92.2% 2.日本オラクル [以下略] 3.モモタロウ 4.ユニバーサルエンタテイメント 5.中外製薬 6.ドンキホーテホールディングス 7.アゴーラ・ホスピタリティー・G 8.ラオックス 9.いちごグループホールディングス 10.日産自動車 11.すかいらーく

 これらの企業の筆頭株主を調べてみました。なお時価総額は15年12月30日の終値、比率は会社四季報Onlineによる。情報源によっては順位比率等に集計時の関係で若干違う場合がある。
 ネクソンはPCオンラインのゲームの会社ですが、45.2%をもつNXC corporationが第1位で韓国籍の会社です。実質子会社といえる。日本オラクルはデータベース管理ソフトに強いがストレージ等も扱うコンピューター関連の会社で、米国のOracle Corporationが1985年に日本で設立した法人である。モノタロウは工場用間接資材をネット通販する会社で、住友商事とGrainjer International Inc.(米国)と共同出資して設立した会社である。ユニバーサルエンタテインメントの筆頭株主はアジア一の大富豪・李嘉誠が率いる長江グループ(香港)の投資会社である。中外製薬はスイスの製薬会社ロッシュ・ホールディング・リミテッドが61.4%を握っている。しかし、経営は旧来からの日本人経営者に任せていると聞いている。研究開発費等が多大にかかるため資本注入してもらった。資本提携により自社製品の拡販にロッシュの販売ルートを利用できるようになって今は良好な関係が続いていると報道されている。ドン・キホーテは外国人の持ち株比率は高いが、筆頭株主は社長の資産管理会社で2位もその社長である。7と9はよくわからない。8位のラオックスは中国系、最近のインバウンド(訪日外国人旅行者)の爆買で儲かっている。日産自動車はルノーが43.4%を占めて実質経営権を握っている。すかいらーくはニュートン・インベストメント・マネジメント・リミテッドが筆頭株主であり、すかいらーく以外にも沢井製薬、スギホールディング(スギ薬局)、ドン・キホーテ等を大量保有している。同社は欧州の株式投資に強いということで、逆に明治安田アセットマネジメントや三井住友アセットマネジメント等の投資運用会社が欧州株の運用を依頼しているということで、純粋に投資顧問・投資運用会社と推測される。
 一般的に経営権を左右できるのはどの位というのは難しいが、株主総会での特別決議たとえば取締役、監査役の解任決議は66.7%いる。逆に33.4%あれば拒否できるわけですから、3分の1以上を一法人もしくは一個人が持っていれば通常コントロールできるが、外資の現地法人ということになれば51%以上はほしいということになる。単に外国人投資家が51%以上持っているだけではダメ。とするとこれに該当するのは1位のネクソン、2位の日本オラクル、5位の中外製薬になる。8位のラオックスの社長が中国人、10位の日産自動車の社長がカルロス・ゴーン(フランス人)ということも考慮すると、質問の趣旨の従属にあたるかどうかはわかりませんが、この辺りまでがそれに含まれる。
 しかし、ネクソンと日本オラクルはもともと外資が日本の子会社として設立したので、質問の趣旨には当てはまらない。完全に従属させようとすれば少なくとも51%を握らなければならないので、既存の日本の会社の経営権を取得しようとしたら旧三洋電機を中国のハイアールが買ったように、落合氏の言うようにボロ会社でないと無理ですので一応あり得ないことになります。いまシャープの液晶技術を台湾の鴻海精密工業が狙っていますが、経産省は技術流出をおそれて中小型パネル大手のジャパンディスプレイ(JDI)との液晶事業の事業統合を検討しています。家電メーカーをリストラにあった人が韓国系や中国系の会社に再就職して技術流出したので、このことを心配している方はかなりおられる。質問に字義通りに答えるとこれで終わるのであるが、花山は親切なのを信条としているのでお気持ちを察して回答を続ける。
 質問の趣旨は「何かアメリカのヘッジファンドみたいなのが日本の株式市場をひっかきまわしているのではないか」というふうに替えて答えていきます。投資と投機との区別はあいまいなのですが、例えば投資信託は前者、ヘッジファンドは後者としてもいいでしょう。後者の場合は受託した資金だけでなく借入金でレバレッジ(梃子)を掛けるのでハイリスクハイリターンとなる。いろんな特徴をもったファンドがあるが、例えばロング・ショートの場合はロング(買い持ち)とショート(売り持ち)の双方のポジションをとる。割安と過少評価されていると判断した銘柄については一般的な投資信託と同じく買い(ロング)のポジションを取り、逆に割高つまり過大評価されていると判断した銘柄については空売り(ショート)のポジションを取る。何を言いたいかといえば、株を所有していなくても影響を与えることができるのである。長期保有している安定株主より売り買いを煩雑にするいわゆるモノを言う株主の方が影響力が大きいこともある。だいぶ前であるが、トヨタ自動車の社長が従業員の首を切らないと発言したらブーイングを浴びせたファンドがいた。日本の企業は長期的視点に立って運営してきたが、短期的な利益を要求する主に米国系の一部のファンドまたそれに追随する日本の投資家によって、日本でもそれを積極的かどうかは別にして考慮する経営者が増えてきたのも事実である。そういう意味ではイエスである。だから売買高が70%に達していることの方が問題なのである。
 最後に⑤「20年間以上にわたって対外純資産世界1を続けている日本のグローバル企業を甘く見てはダメです」について一言いっておく。そのまま読むと日本のグローバル企業が対外純資産世界1みたいになる。日本が対外純資産世界1であるのは間違いないが、ではなぜ純資産でマイナスのアメリカのファンドが跋扈するのかがわかっていないからこういう発言がでる。この2、3年の外人買いの増加は円安の影響がある。浜矩子の1ドル50円は見事外れたが、少なくとも対ドル100円程度ではここまでならなかったのではないか。ドルで見た時日本株は割安に見える。これが一つ。つぎに日本の対外資産内訳でアメリカ国債(リスクが低い)が大きな比重を占めるということをお忘れなく。対してアメリカは金融資産の内でリスクマネーの割合が高いということ。第3にドルが基軸通貨だということはさらに重要である。例えば、ある国(a)からある国(b)にドル建てで輸出し必要な経費を控除した残りをドル(所有者はアメリカ人ではない)のままアメリカにリスクマネーとして還流しているということもある。実は(b)国のドルはずっと前にアメリカが買った輸出代金をためていたとしたらどうだろう。丸儲けである。一説ではアメリカが支出したドルの内6割が還流しないともいわれている。基軸通貨国の世界経済に対する責任は重いが、メッリト(通貨発行権の利益)もすごいのである。アメリカの金融資本を甘く見てはならない。

  アジアへの資本輸出
 この章の表題は「世界市場再分割」でした。今までは導入部で、今からが本論である。国内においてもメーカーが商品を売ろうとした場合、通常は卸業者を通す。売るのも難しいが売掛金の回収はなおさら難しいからである。海外になると国ごとに勝手が違う。インドは州ごとにも言語や勝手が違ってなおさら難しい。金融機関が仲介する場合もあるが日本の場合は主に商社がこの役割を担っている。財閥系の三菱商事(海外拠点191ヶ所)、三井物産、住友商事に加えて東京、大阪の2本社体制の伊藤忠商事、食糧に強い丸紅をいれて五大商社という。豊田通商(トヨタ自動車系列)、双日(2004年にニチメンと日商岩井が合併して誕生)を入れて七大商社という場合もある。住友商事は戦後に設立されたので、この業界では昔から商事といえば三菱商事を、物産といえば三井物産を指していた。ここでも以下この通称でいく。今回、伊藤忠商事を取り上げて説明していく。
 最初に押さえておかなければいけないのは、ここでいう商社というのは総合商社の略で、専門商社(建材、鉄鋼、飲料等)と規模だけでなく販売マージンの収益も大きく、加えて特に海外では地場資本と組んで合弁会社を設立したりして資本投下(資本輸出)する場合が多い。いわば、市場再分割の最前線にいるわけである。数年前までは利益は商事、物産、住友商事、伊藤忠の順番でしたが、住友商事が資源価格の暴落で大損して順位を下げました。先ほどの外国人の持ち株比率のところで李嘉誠が率いる長江グループを取り上げましたが、東南アジアの場合、財閥系の企業が多く一族が支配していて独占的シェアを持っていたり、川上から川下までのサプライチェーンをコントロールしていたり、全国津々浦々をカバーする販売チャネルを有していたりする。また外資規制の問題もあり、再分割といっても実際にはどこかの財閥と組まなければあり得ないわけである。しかもその財閥の創業者が中国出身というのがかなり多い。今回取り上げるチャロン・ポカパングループ(以下CPグループ)も、現在の総帥ダニン・チェワノンの父が広東省東部から1920年頃タイに移り住んで野菜の種苗の販売を行ったのがビジネスの起源。純資産額1兆7633億円。傘下にはセブンイレブン約8,500店を展開するCPオールや、明治乳業との合弁会社CPメイジ等をかかえタイ最大の財閥である。なぜこの提携を取り上げるかというと、①2014年に伊藤忠がCPグループ(実際の投資は系列会社で中国・ベトナムにアグリビジネスを展開するCPポカパンに25%出資)に資本投下しただけでなく、CPグループの特別目的会社(100%出資)CPワールドワイド・インベストメントが4%、EN-CPファンド(50%出資、残り50%は日本政策投資銀行が出資)が0.9%を伊藤忠に合計1000億円出資してしかも筆頭株主になった。伊藤忠ほどの規模で本体への資本参加を認め、そのパートナーが筆頭株主になるというのは日系企業では初めてである。②2015年初頭、両社で共同出資会社を設立し、中国最大級のコングロマリットの中国中信集団(CITICシティック)に約20%を投資した。伊藤忠の拠出額5000億円は、日系企業が中国に投資する額としては過去最大となった。
 そしてCITICが持ち分法適用となり、今期6ヶ月の約300億円が利益計上される。またCPグループの利益約70億円もあり遂に商事、物産を抜いて純利益でトップになる見込みである。伊藤忠の社長経験者である丹羽宇一郎が中国大使をしていた時も中国での評判は良かった(日本では悪かった)のに、なぜ中国に直接投資しないのかと疑問に思っていたがやっと解けた。推測ですが、中国と日本の軍事衝突はあってもタイとはない。そこまでいうと穿ちすぎでしょうが、日本-タイ-中国の連携でアジアでの商圏の拡大を狙っているということでしょう。ミャンマーのチャオピュー経済特区では、昨年末までにCITIC、インフラ大手の中国港湾行程(CHEC)、CPグループなど6社でつくる企業連合が開発権を取得した。チャオピューには中国の重慶から昆明を経て石油・ガスパイプラインが中国石油天然気集団(CNPC)によって15年1月に建設済で、ここに約1,000ヘクタールの工業団地や、20フィートコンテナ換算で年間7百万個の処理能力を持つミャンマー最大の港湾施設を整備する方針。総事業費は数千億円規模とみられる。伊藤忠の間接投資ともいえる。
 最大都市ヤンゴン近郊のティラア、タイ国境に近いダウェーでもSEZ開発が進められており、日本の官民が工業団地整備などに進出が予定されている。タイではコンビニエンスストアの数を見ても分かるように一定市場分割が進んでいる。それゆえタイの最大財閥CPグループもベトナムやインドネシア等に進出している。またミャンマーは長い間、軍事政権が続いたため中国以外の進出は遅れていたが、アウンサン・スー・チー率いるNLDの勝利によって脱中国が進むとみられているので再分割も加速する。以上で日本のアジアへの資本輸出、市場分割戦の最前線からの報告を終わります。(この項の参考文献は『ASEAN企業地図』桂木麻也 翔泳社、日本経済新聞16.1.7)
 結論、以上みてきたように資本の傾向が「市場統合」へ変化しているなどとはとてもいえない。「これらの巨大金融資本が互いに補完しあったり、対立したりして、結局、今も、広い意味での一種の『市場分割・再分割』というパワーポリティックスが世界で続いているとみるのが妥当ではないか」という見解に賛成である。ただこの分野で金融資本が主導権を握っているかどうかはもう少し分析がいると考えられる。もちろん「(2)銀行資本と産業資本が融合し、この『金融資本』を基礎にして金融寡頭制がつくりだされたこと」を否定するつもりはない。また帝間戦争について言及したが、これについて経済分析のみでは論証できるものではない。政治経済分析(軍事分析も含めた)が必要であるということをつけ加えておく。

Ⅴ あとがき
 昨年の上期報告の主要議題の一つはピケティの『21世紀の資本』でした。ピケティは3世紀にも及ぶ長期のデータから、歴史的事実として貧富の差は放置しておくと拡大することを明らかにしました。また、この解決策として「世界的な資本税」を提案しました。貧富の差の拡大という事実ついてエコノミストからは明確な反論は出ていませんが、解決策については実行可能性について疑問が出ています。花山も無理だと断言する。格差が拡大しているのにまだそれを増幅するような政策が実行されようとしている状況で、そんなことができるはずはない。
 例えば法人税の減税、史上最高の利益を上げている状態でなぜ減税なのか? 税率が低いと企業が来る。税率が高いと低い国に企業が出ていくという理屈がある。確かに、シンガポールの税率は17%と低いのでそれに魅せられて移動したところもある。例えば村上ファンドもそうであるが、日本に何もしがらみのない企業は出ていくかもしれないが普通はそんなことはあり得ない。逆に低くしたからといって過剰資本状態の日本へ来るわけがない。シンガポールの物流施設大手、グローバル・ロジスティック・プロパティーズが日本へ進出してきている。「209億円を投じた超大型物流センターだ。延べ床面積13.1万平方メートルと今年竣工する(引用者注:昨年7月段階)施設の中では2番目に大きい」(『週刊東洋経済』2015/6/6号)。インターネット通販市場の拡大が背景にあり、ビジネスチャンスがあればどこからでも参入する。資本投下して利益が出るかどうかである。法人税は関係ない。出ていきたい奴は出ていけ。ただし、二度と帰ってくるな。
 ヘッジファンドのような企業はどこにおこうが関係ないが、消費者相手の企業が課税逃れのために移動することはイメージダウンにつながる。スターバックスは1998年に英国に進出、現在735店を展開。これまでに総額30億ポンド(約3810億円)以上の売り上げがあったのに、納めた法人税はわずか860万ポンド(約10億9220万円)。2011年は3億9800万ポンドの売り上げがあったのに3300万ポンドの損失を計上していた。要はイギリスでの利益の一部を技術料の名目で税率の低いオランダに移していたということらしい。その後妥協して法人税を納めるようになった。こういう場合消費者の評判ということでは一定の歯止めをかけることは可能かもしれないが、富める者が、このままでは資本主義の存続が危ういので法人税を上げようとか所得税を上げようとかピケティの資産課税をやろうなどという話にはならない。「世界的な資本税への第一歩は、国際レベルにまでこの種の銀行データ自動送信を広げ、納税者すべてに計算済みの資産一覧を発行するにあたり、そこに外国銀行で保有されている資産の情報も含めるようにすることだ」(『21世紀の資本』p546)とか、毎年かける(年次課税)ため低い税率にするとかそういう技術的な問題ではなく、平時ではそんなことに同意は得られないということだ。平時ではないということはどういう状態なのか。唯一の解決策は資本主義をぶっ潰す革命しかないのである。
 縷々述べてきましたが、その社会の支配的な思想はその時の権力者の思想なのであるからして、常に身構えておかねばなりません。具体的な指摘はしませんが軸をしっかりと持っていないと騙されます。現代のカウツキーにならないようお互いに注意しましょう。今回のテーマで花山の一番言いたかったのはこのことである。

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